著:東小雪さんの『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』感想

 東小雪さんの『なかったことにしたくない』を読んだので、その感想。

なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白

なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白

 

 Kindle版もあります。紙の本の発売日と同時に出したみたいで、デリケートな問題を扱う本として、いい出版方法だと思う。

 

概要
東さんの幼少から思春期・宝塚時代
精神的に不安定な頃・性虐待の記憶と奮闘記
同性結婚式、自分はどのように生きて行くか 

一言感想「しんどい本だった」

 

以下詳細

宝塚時代

この本はセクシュアリティと性虐待について重点的に書かれている本だと思っていたら、予想外の濃さがあった。なにかというと、宝塚の内情。細やかに書かれていて、それがなかなかエグい。華やかな世界の裏側の努力、という壮絶さではなくてね。なんていうか、軍隊のシゴキを思わせるというか、上下関係を保つための『儀式』的な行為が異様に思えた。これ、常人が他人に出来ることじゃないよ。こんなことを他人にしたら、受けた人だけじゃなくて常人だって離れていくから、集団として成り立たなくなるし。でもこれ、出来てしまうのは「宝塚という場所から離れられない」からなんだと思う。精神的、身体的に被害を受ける場所だけれど、ここから離れられないから被害を受け続けるしかない、って環境。
こうして書き出してみると、宝塚で行われていることって、子どもを支配したい親がするひどい無茶振りと一緒に見える。「離れられない環境で、とにかく失敗をみつけて、謝らせて、上下関係を明確にして、常に顔色を伺わせるようにする」っていうの。これ、家庭内でやれば完璧に精神的虐待だし、他人にやればパワハラ、最悪傷害にならないのかな。それくらい大事だと思う。そりゃ、髪の毛が大量に落ちていたら不快だし排水が詰まっちゃうから拾うべきだけれど、「お風呂を使った後、シャワーヘッドまで外して水をきる」っていう掃除は、次使う人がどう得をするの? 難癖つけて謝らせたいためだけの行為に見えなくて、気分が悪くなったし、これがまかり通る環境に嫌悪感が湧いたよ。
それと、先輩が後輩を夜遅く、時には朝方まで叱りつけるって、本当に馬鹿馬鹿しいことだと思った。だって、夜更かししたあとの身体ってコントロールが効かなくなるし、一時間あれば10分の曲を数回は聞けるし、発声練習をしたあとに練習曲を歌えるし、4小節のワンフレーズをじっくりやっても十回は練習出来るよ。と思うと、叱る方と叱られる方、お互いの時間が勿体無さすぎる。読んでいてうんざりしましたよ。

 

それから、性的虐待の被害

二重三重の要素でキツくなってくる内容だった。要素のすべてが「東さんの苦痛を無視」していて、それが組み合わさることで最悪の状態が続いていた。
まず、東さんのお父さん。性的虐待をした最低の父親だけれど、東さんに対して「自然に口封じ」したあたりで、非常に頭の良い方だったように感じた。世渡りというか、人当たりがいいというかね。誰から見ても「立派な人」で、性的虐待を受けているということを理解出来ない東さんにとっても「誇らしくて優しいお父さん」だったから、東さんはお父さんがお風呂場でしてくることを「黙らなくちゃいけない」と思っていた。
なんていうか、人として最低という言葉しか出てこない。「お父さんは立派で優しいんだ」と思っている子どもにつけ込んで性的虐待をして、且つ日常生活で優しくし続けて、「お父さんは優しいんだ、だからお父さんのしていることは変じゃないんだ」って思わせる力って、詐欺の才能に満ち溢れた人じゃないと難しいと思う。騙せる力もそうだし、騙し続けられる胆力もね。性欲の捌け口として娘を使い続けられる人間って、頭のどこかが普通の人と違うよね。自分の子どもで性欲を満たして、それを続けられるのって、怖すぎる。

で、東さんのお母さん(と祖母さん)も酷い。東さんが父親から性的虐待を受けるという辛い思いをしているのに、母や祖母はそれを無視して、「なんの問題もない家族」をするの。読んで情景を想像して、ぞっとした。東さんが小学生二年の頃には挿入があったみたいだけれど、まだ身体が小さいから父親に挿入されて泣き叫ばないはずないのに、台所にいる母親と祖母は無視してご飯を作る。お風呂場でおぞましい虐待が行われていて、台所はなにごともないように炊事が進む。
多分、母親は始めの頃から気づいていたんじゃないかな。そう思う理由は三つ。
1、たとえ父親が側にいたとしても、目の届かないところで子どもがぎゃんぎゃん泣いているのに気にならず、見に行かない母親はいないのでは
2、部屋の隅で子どもの様子がおかしくなっていたのに、気にかけないのはおかしい。小学二年生なら挿入された後に普通に歩けないのでは
3、小学二年生の膣に挿入すればほぼ確実に裂けるだろうし、そうすると下着に血液が付着する。それに気づかないものか

どれか一つでも気づけばなにがあったのか気にかかるだろうし、二つに気づけば「なにかがあったことを確信する、起こったことを把握して確信しようとする」だろうし、三つ気づけば「誰と一緒にいる時になにがあったか」分かると思う。だって、自分の娘の様子がおかしいんだからね。
で、何度も行われていたということは、最初の一日目で全部気づかなくても、二回目、三回目も様子がおかしかったり痕跡があるはずなんだから、気づくはず。
気づいていて放置していたなら、東さんのお母さんは鬼だし、気づかなかったなら、人の親に向いていなかったんだと思う。

 


そして、東さんの今とこれから

同性結婚式とか、プライドパレードとか、素敵な思い出をひろこさんと作って行っているご様子。小雪さんとひろこさんが試行錯誤しながら色々やってみているの楽しそうだなぁ、楽しいんだろうなぁと思った。プライドパレードの写真に写っているみなさんの笑顔が眩しかったし、同性結婚式の写真、たいへんお綺麗でした。

この同性結婚式のお話、好きです。女性カップルなのですが、結婚式が出来ますか?と尋ねた時、ディズニーさんの最初の対応は「どちらかが男性の衣装の着用でならOK」っていうもので、それは同性結婚式で求めていることと違うなぁ……と感じたんだけれど、一週間かけてディズニーさん内できちんと確認して、「結婚式を挙げていただけます」と案内、それから最初の対応をきちんと謝罪していて、その姿勢が丁寧ですごくいいなぁと思った。きっと結婚式本番もスタッフさんたちはいい対応をしたんじゃないかなぁ。(なんでもオープンにする小雪さんが問題点を書いていないことから推測する)読んで、小雪さんが結婚式をとても幸せに、目一杯楽しんだことが伝わってきたので、楽しくなりました。末長くお幸せにいて欲しいです。

 

 感想の総括

正直にいうと、たくさんの人には勧められない本だと思う。というのも、私はこの本を「同性結婚式をした東小雪さんの本」だと思って購入したのだけれど、同性結婚式よりも宝塚のエグい内部事情、薬物依存、常軌を逸した東さんのご両親、そういうお話が中心だから、非常に重たかった。いや、そもそも父親からの性的虐待を「なかったことにしたくない」という主旨の本だとは分かっていたんですが、こう、予想をはるかに越えたキツさでした……。かなりキツくて一気には読めなかった。思考が立ち止まるっていうかな。たくさんの人から尊敬される東さんのお父さんと、家庭的なお母さんと、性的虐待をされる東さんが頭に浮かぶと、この歪んだ家庭が成立していたことに混乱して、要因を考えてしまうんだけれど、全然理解出来ないんだよね。ただもう、東さんがすべてを我慢していたから成り立っていただけで、でもその家庭環境って常人じゃ耐えられないことで、東さんよく生きてこられたなぁと思う。そんな感想をもってしまうくらい陰惨だった。

だから、この本を読んでみてってお勧め出来るのは、「こういう話に理解がまったく無い人」か、もしくは「耐性がある人」か、はっきりとは勧めにくいけれど「こういう生育歴だった可能性があるけれどはっきりとは分からない、でもとにかく生きにくい人(自衛本能のため記憶が埋れている人、参考書的に読みたい人)」かな……。常人の感覚で読んで理解しようとはしない方がいいです。
あと、とても良いなぁと思ったのは、この本はKindleでも買えるってこと。何らかの解答や救いを求めてこの本を買う人って確実にいると思うんだけれど、そういう家庭環境の人の家族にこの本を見られたらどうなるか、ってことを想像するだけでも怖い。東さんのご両親は、東さんが「お父さんに入浴を誘う娘が出てくるCMソング」を歌うだけでも激昂したからね。自分がお風呂場で性的虐待したり、気づかないふりしていたくせにね。そんな感じに、家族からなんらかの良くない反応が起こる可能性があるから買えないって人でも、個人でスマートフォンなどを持っていたらこっそり買えます。というか、そういう可能性を考えてKindleでも出したのでは無いかなぁと思っています。AndroidでもiPhoneでもKindleアプリがあります。AmazonアカウントをKindleに登録して、Amazonのギフトカードを登録すれば、クレジット登録なしでダウンロードできますよ。マーク機能が思った以上に使いやすかったし、お勧めです。

 

しっかし辛い本だった。次は幸せな話がたくさんある本を読みたいなぁ……。